高齢者の健康状態と抜歯のリスクとは
近年は、医療技術があがり、できるだけ歯を抜かずに保存する治療法が多くあります。しかし、重度なむし歯や歯周病にかかり、歯を残すことが難しく、残念ながら抜歯を選択せざるを得ないのが現状です。
日本の歯科医院で抜歯された歯数を調査した7日間の結果では、20〜40代までは、400本前後と横ばいに対して、50代から一気に増加傾向にあります。
65〜69歳では1200本近くとなり、20~40代の約3倍も抜歯されていることになります。
(出典[https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/document-tooth-extraction-investigation-2nd.pdf]:公益財団法人8020推進財団 2018年第2回 永久歯の抜歯原因調査より)
高齢になるとともに、抜歯という選択を避けられないケースが増えるのです。
ただし、抜歯に際して起こる合併症のリスクは健康状態に左右されるため、より十分な注意が必要になります。
特に高齢であったり、病気を患っていたりすると、抜歯にはどのようなリスクが伴うでしょうか。詳しくみていきましょう。
生活習慣病などの持病がある方は「抜歯前に報告」を
全身の健康状態は、お口の中にも深く関わりがあります。持病があることを事前にお伝えしていただければ、抜歯の前後の処置や対応により、抜歯に伴う合併症などのリスクを減らせます。
●糖尿病
糖尿病の方は、歯周病のリスクが高く、合併症のひとつとされています。特に、2型の糖尿病の方が多く、加齢や生活習慣(ストレス、喫煙、飲酒、肥満など)によって引き起こされます。中年以降に発症して、歯周病の進行に気が付かず、最悪の場合は抜歯となるリスクがある全身疾患です。
糖尿病の方は、抜歯後に感染を生じやすく、抜歯を行える健康状態かどうかを見極める必要があります。すでに、歯周病にかかっている場合は、歯に付着している歯垢を減らすプラークコントロールを行いながら、病状を把握し、抜歯するタイミングを決めます。
●脳卒中
血をさらさらにする薬を服用している方は、抜歯後に血がとまりにくくなるリスクがあります。薬の服用を一時中断して抜歯を行う場合や薬の服用はしたまま止血に注意して抜歯する場合があります。
ただし、自己判断ではなく、かかりつけの内科医と連携をとり、抜歯するかを判断する必要があるため、事前に歯科医師に病状を報告しましょう。
●心臓疾患
血をさらさらにする薬を服用している方は、事前に歯科医師に病状を報告しましょう。自己判断で薬の服用を止めることはしないでください。かかりつけの内科医と相談して、抜歯するかどうかを判断します。
また、免疫機能は通常であっても、心臓に持病がある方は、抜歯により感染性心内膜炎を発症するリスクがありますため、事前に抗生剤を飲んでいただくなどの対応が必要になることがあります。
●骨粗しょう症
骨粗しょう症を治療中の場合は、ビスフォスフォネート製剤や抗RANKLモノクローナル抗体などの骨を強くする薬を服用している可能性があります。このような薬を一定期間服用している状態で抜歯を行うと、歯を支えている骨が壊死(顎骨壊死)したり、炎症がひどくなったりするリスクがあるのです。
顎骨壊死の原因は、いまだに不明とされていますが、抜歯により歯を支えている骨(歯槽骨)があらわになり、感染リスクがあがるためと考えられています。
骨粗しょう症の方はお口の中をより清潔に保つことで、顎骨壊死のリスクが低下するとされているので、抜歯前に十分に歯のクリーニングを徹底して行います。
●自己免疫疾患
免疫機能が低下していると、抜歯後に傷の治りが遅くなったり、炎症を引き起こしたりするリスクがあります。
●認知症や要介護
歯を失うと、「食べる、話す」といったお口の機能が低下して、引きこもりがちになる、コミュニケーション能力の低下などを引き起こし、寝たきりや認知機能が低下するリスクが増加します。また、よく噛めないと、脳への刺激が少なくなり、認知症のリスクが高くなる原因とされています。
なんと、要介護状態になるリスクは、お口の機能が低下していない方に比べると2倍も高いという報告があります(出典[https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-001.html]:厚生労働省 口腔機能の低下と寝たきり・認知機能の低下の関係より)。
また、すでに認知症や要介護の方は、お口の中を清潔に保つための「歯磨き」をするのが困難となり、抜歯になるリスクが高くなります。
歯を支えている骨が硬くて抜歯しにくい
年齢が上がるほど、歯を支えている顎の骨が硬くなる傾向にあります。これにより、歯が抜きにくく、治療の時間が長くなり、患者様の負担が大きくなります。
また、加齢により歯は硬く脆くなるため、抜歯する際に歯が割れて、根っこだけが残ってしまうリスクがあります。
全身疾患はなくても、20歳をすぎると、年齢とともに免疫力が低下してくるため、シニアの方の抜歯時の感染リスクがあるのです。若い方に比べると、傷の治りが遅く歯ぐきにくぼみができることがあり、入れ歯が合わないなどのトラブルの原因になります。
抜歯を防ぐためには「歯科での定期検診」がおすすめ
全身疾患や免疫力など総合的にみると、シニアの方の抜歯はリスクが高いとわかりました。
そのため、歯科医院で治療を受ける際は、事前に全身疾患の有無をお伝えください。全身疾患のある方は、歯科医師や内科医と相談して、抜歯するべきかどうかを決めましょう。
そもそも、リスクを抱えて抜歯をするより、1本でも歯を多く残す方が豊かな生活を送れます。抜歯するリスクを下げるためには、歯科医院で定期検診を受けてお口の中を清潔に保つのがおすすめです。
特に、全身疾患がある方こそ、お口から全身の健康を守るために、定期的に歯科医院に通うことが望ましいと考えます。
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